AGA遺伝子検査とは、将来的な薄毛リスクや治療効果の予測を目的に行う遺伝子分析です。男性型脱毛症(AGA)は進行性の薄毛で、発症には遺伝的体質が関与しているとされています。本記事では、その発症リスクを事前に把握できる「AGA遺伝子検査」について詳しく解説します。
AGA(男性型脱毛症)のメカニズムについて詳しくはこちらをご覧ください。
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- AGAは男性ホルモンと遺伝が原因
- AGA遺伝子検査で発症リスクを確認
- CAG・GGC遺伝子配列の数で感受性を判定
- 検査はAGA予防や治療指針の参考になる
- 簡易検査より医師の指導下で検査を推奨
AGAのメカニズム
AGAは男性ホルモンに起因して発症する進行性の脱毛症です。主に20代前半以降の男性に多く見られる症状であり、前頭部や後頭部を中心に抜け毛が増え徐々に薄毛が進んでいきます。AGAは具体的な対処を施さなければ進行を止めることはできません。
AGAの原因
髪の毛は、「ヘアサイクル(毛周期)(*1)」と呼ばれる髪の生え代わりのサイクルが一定の周期で正常に行われることによって健康を保っています。
しかしAGAを発症すると、ヘアサイクルにおける「成長期」と呼ばれる髪の毛の成長にとって重要な期間が短縮されてしまうのです。
AGAの発症には悪玉男性ホルモンと呼ばれる「DHT(ジヒドロテストステロン)」が深く関与しています。体内で生成されたDHTと男性ホルモンの受容体である「アンドロゲンレセプター」が結合することによってAGAは発症します。
発症したAGAにより成長期を短縮されてしまった頭皮には、細く短い髪の毛ばかりが目立つようになり、結果的に薄毛へと繋がっていきます。
*1 ヘアサイクル(毛周期):髪の毛に存在する一定の周期。主に「成長期」「退行期」「休止期」からなるサイクルのこと。
AGAにおける「遺伝」とは
AGAは、母親から受け継いだX染色体上の遺伝情報が発症リスクに関与しています。特にアンドロゲンレセプターの感受性の高さが、DHTとの結合を促進し、薄毛を進行させる要因となるため、遺伝的要素はAGAの重要な要因の一つと考えられています。
人間の体を構成するすべての細胞の中には、数百から数千の遺伝子(*2)を含んだ「染色体(*3)」といわれる生体物質が存在します。
染色体の数は生物によって異なっており、人間の染色体数は22種類2本ずつで構成される常染色体と、「X」と「Y」の2種類1組からなる性染色体の計46本です。性染色体の組み合わせは「XY」が男性、「XX」が女性と、性別によって固有の組み合わせを保持しています。
男性の染色体は、Xを母親に、Yを父親に由来します。
AGAは主に母親から受け継がれるX染色体が関与していると考えられています。X染色体にはY染色体に比べ多くの遺伝子が存在し、その多くは性を決める以外の機能を保有しています。
上述したように、男性ホルモン受容体であるアンドロゲンレセプターの感受性に関する遺伝情報もX染色体に含まれています。
アンドロゲンレセプターの感受性が高ければAGAの罹患リスクは高くなると考えられています。そのため、母親から受け継いだX染色体の遺伝子が、アンドロゲンレセプターの感受性が高い特徴を保有していれば、体質として子孫に受け継がれる可能性があると考えられます。
*2 遺伝子:タンパク質の生成に関わる遺伝情報をもっているDNAの一部(領域)の名称
*3 染色体:細胞の核内に存在する遺伝子を含んだ棒状の構造体
AGA遺伝子検査の概要と目的
AGA遺伝子検査の目的は、自身が遺伝的にAGAを発症しやすい体質かどうかを事前に確認することです。発症リスクや治療効果の予測が可能になり、早期治療の判断材料として活用されます。
具体的な方法と注意点
AGA遺伝子検査の方法は唾液を採取して検査するものもあれば、髪の毛を5本前後送付して検査できるものもあり、検査によって採取方法は様々です。
AGAに対する発症リスクや予測など、遺伝子検査によって得られた情報をもとに、将来的な罹患率の有無や具体的な治療および対策を決定します。最近では、インターネット上の通販サイトで医療機器や健康食品を扱うメーカーなどから、自宅で出来る遺伝子検査キットが販売されています。
口腔内の粘膜を採取し返送することでAGAの発症率や罹患リスクを診断してもらえる製品ですが、簡易的なキットであり、結果の信憑性が疑わしい場合もあるようです。
そのため、AGA遺伝子検査を希望する際は病院やクリニックで医師の指示のもとに行うべきでしょう。
注意点
体内の粘膜から細胞を採取する場合は、煙草や歯磨き粉に含まれる成分が検査に影響を及ぼす可能性があるため、検査前の喫煙、歯磨きは控える必要があります。
検査の判定基準
AGA遺伝子検査は、別名「アンドロゲンレセプター遺伝子解析検査」と呼称されることもある検査ですDHTに対する感受性を左右する遺伝子配列の繰り返し回数から、AGA発症リスクを判定します。この検査は、アンドロゲンレセプター遺伝子の「CAG」や「GGC」という塩基配列の繰り返し回数を測定し、感受性の高さを評価します。
アンドロゲンレセプターの感受性を決定する遺伝子の中には、一定の塩基配列が何度も繰り返される「CAG」や「GGC」と呼ばれる領域が存在しています。
DHT(悪玉男性ホルモン)に対する感受性の有無は、「CAG」と「GGC」の塩基配列が繰り返される数を調べることによって予測ができると考えられています。
塩基配列の回数が多い場合には、DHTに対する感受性が低いためAGA発症リスクが下がり、少ない場合には、DHTに対する感受性が高いためAGA発症のリスクが上がると判定することができます。
*4 塩基配列:DNAを構成する単位であるヌクレオチドの並び方を示したもの。
検査基準の詳細
現在国内で行われているAGA遺伝子検査における具体的な方法は、上述したアンドロゲンレセプターの感受性を決定する遺伝子配列である「CAG」と「GGC」という塩基配列が、どの程度繰り返されているか(リピート数)を調べるというものです。
「CAG」と「GGC」の塩基配列を合計した数字に一定の基準値を設け、その数字と比較した際に「CAG」と「GGC」の合計値が下回れば潜在的なAGA罹患リスクが高く、上回れば潜在的なAGA罹患リスクは低いと判断しています。
また、「CAG」単独の値を調べることで特定のAGA治療薬に対する効果の目安を調べることも可能であり、AGA発症後の治療指針に利用されています。
参考資料:https://patentimages.storage.googleapis.com/f8/08/8d/216255b0ce2eac/WO2009154259A1.pdf
検査の期間と費用
AGA遺伝子検査における粘膜の採取や採血に時間はかかりませんが、採取した検体からAGAに関連する遺伝子情報を解析する必要があるため、検査結果が確定するまでには平均数週間〜1ヶ月程度の期間が必要です。
病院やクリニックで検査を受ける場合には、個人情報保護の観点から直接面談する形で検査結果を通知している医療機関が多いです。
AGA遺伝子検査は、保険適用外の自由診療であるため検査費用は病院やクリニックによって差があり、平均相場は15,000円〜30,000円程度です。遺伝子検査キットを使用する場合の平均相場は、病院やクリニックに比べて数千円程度安価な場合が多いです。
AGA遺伝子検査の注意点と留意事項
AGA遺伝子検査は、遺伝要素におけるAGA罹患率の有無や治療薬に対する感受性を調べる検査として一定の成果が認められていますが、懐疑的な意見があることも事実です。
遺伝学の研究や進歩、遺伝学分野の診療推進、純類遺伝学の知識普及を目的として、1956年に創立された「日本人類遺伝学会(※1)」では、一般市民を対象とした遺伝子検査について問題提起を行っています。
また、海外では2012年にアンドロゲンレセプター遺伝子とAGA発症リスクとの因果関係を検証した研究(※2)のメタ分析(*5)報告がなされています。
このメタ分析は過去に行われた多数の研究により、アンドロゲンレセプター遺伝子とAGAのリスクとの関連が示されている状況の中で、より高い見地から研究の結果を改めて分析し、信憑性のあるデータを採取することを目的として行われたものです。
すでに結果が示されている8つの研究結果に対して、メタ分析を実施することによって、一般的なアンドロゲンレセプター遺伝子がAGAに対する感受性を付与する可能性を検討しています。
メタ分析の対象となった8つの研究を集計し、合計でAGA患者2074人と健常者1115人のデータが分析された結果、アンドロゲンレセプター遺伝子とAGAのリスクの間に、特に白人集団において関連は確認できていません。
そして、アンドロゲンレセプター遺伝子が、特に白人集団においてAGAの潜在的な危険因子である可能性は示唆しながらも、AGAのリスクとアンドロゲンレセプター遺伝子の明らかな相互関係は見つからなかったと結論づけています。
※1 「一般市民を対象とした遺伝子検査に関する見解」(2010)
※2 「アンドロゲン受容体遺伝子多型と男性型脱毛症のリスク:メタ分析」
*5 メタ分析:すでに分析のなされている複数の研究データや資料を収集し、それらを統合して多角的に再度検証、分析する研究方法
AGA遺伝子検査の意義
AGA遺伝子検査は、薄毛リスクの事前把握や治療方針の策定に役立つ有効な手段です。検査自体は発症を決定づけるものではありませんが、今後の予防や治療方針を考える上で重要な参考材料となります。
また、検査結果をもとに、AGAの予防をするのか・しないのか等の具体的な今後のプランを立てることが重要となりますので、AGA遺伝子検査を行う際は専門の医師による指示のもと、病院やクリニックで受診するようにしましょう。
銀座総合美容クリニックでは「常に患者さん目線でのクリニック運営」「患者満足度のより高いAGAクリニックを目指す」をクリニックの運営理念に掲げ薄毛に悩む患者様と日々真摯に向き合っており、無料カウンセリングを対面・オンラインともに常時承っております。

